稼いだお金は何に遣う?
突然ですが、あなたは稼いだお金を何に遣いますか?言い変えれば、何のために稼いでいますか?アメリカ人は、「人生の楽しみは、稼いだお金で余暇を楽しむこと」と言い切る人が多いのですが、日本人にはなかなかなじまない感覚です。どうしてこのような違いがあるのか、長年の疑問でしたが、哲学者の内山節さんの徳島新聞掲載コラム(2021.6.13 成熟社会どう歩く「思惑がつくるスポーツ」)を読んで疑問が解けました。
20世紀になりアメリカでは、工場労働が職人的なものづくりから、単純労働、反復労働を組み合わせた大量生産方式に変わります。このことは当時の労働者には不評で、なぜなら、技を磨くことに労働の誇りや楽しさを感じていた労働者にとっては、稼ぐためだけに時間を消費するだけの新しい労働のかたちは、苦痛でしかなかったからです。この事態を乗り切るためにアメリカは「人生の楽しみは、稼いだお金で余暇を楽しむこと」 という政治的キャンペーンを行いました。その結果、 映画、演劇、音楽、スポーツなど、さまざまな娯楽産業が発展したのだそうです。
「 技を磨くことに労働の誇りや楽しさを感じていた労働者にとっては、稼ぐためだけに時間を消費するだけの新しい労働のかたちは苦痛でしかない」という状況は、日本の歴史上でも同じような状況があったはずですが、日本はアメリカのようにはなりませんでした。
近年、日本では「 働き方改革 」や「働き甲斐改革」といった政治的キャンペーンが展開されています。このキャンペーンの結果、職場環境や処遇環境が変化していき、心が豊かになる社会を目指していることには大賛成ですが、何かぼんやりした印象です。そのさらに先、どんな産業や分野が発展し、私たちは本当に心が豊かな社会を実現できるのでしょうか?これは政治だけの責任ではなく、私たちはどんな未来を描こうとしているのかという問いです。