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元音楽ディレクターが考える「ビジネスでチャンスを掴む」

元音楽ディレクターが考える「ビジネスでチャンスを掴む」

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、私はもともとレコードメーカーの音楽プロデューサー、音楽ディレクターという仕事をしていました。という話をすると、「音楽プロデューサーや音楽ディレクターって何してるんですか?」という質問を受けるのでわかりやすく仕事の内容を話してみるのですが、イマイチよくわからない、という感じになるようです。音楽スタッフの仕事を簡単に紹介させていただきながら、元音楽ディレクター的視点でビジネスのテーマについての考察を書いてみようと思います。前3回のコラムで書いた武道的視点の考察と同じテーマを書いてみるとどうなるか、という試みです。

音楽は、最近はデータとして視聴されることが多いですが、当時はレコードやCDという媒体で視聴されていました。レコードメーカーはCDを売ってその売上で商売をしています。CDに収録されている楽曲の演奏を担当するのは歌手やミュージシャンで、スタジオで録音を担当するのは録音エンジニア、これらを統括するのが音楽ディレクターです。歌手やミュージシャンへの報酬、エンジニアに支払う録音料、スタジオ使用料などが音楽制作費とよばれます。作詞作曲者には印税という形で報酬が発生します。CDには表紙やブックレット、歌詞カードなど紙素材が一体となっていて、デザインはデザイナーや写真家といったクリエーターが担当し、これらを統括するのがアートディレクターです。デザイナーや写真家に支払うデザイン料や撮影料はジャケット制作費とよばれます。その他、CD本体やケースといったプラスチック部分のプレス費用と、ジャケットやブックレットなど紙部分の印刷費用といった製造原価、全国の店舗にCDを配送する配送料、宣伝用のチラシやポスターの販促費や宣伝費、などがCDを作る際にかかる原価です。このようにして出来上がったCDをどのように販売戦略を立て、どのようにプロモーションし、どのように売上を伸ばすか、ということを担当するのがプロデューサーです。現実的にはプロデューサーもディレクターもどちらもやっているという人がほとんどだと思います。

さて、プロデューサー(以下、P)やディレクター(以下、D)にはノルマがあります。たとえば「年間で●●枚のCDを販売し、●●万円の売上を上げる」といったノルマです。売れるCDを作るためには、手っ取り早いのは、有名な歌手やアーティストのCDを作ればいいのですが、歌手やアーティストは特定のレコードメーカーと契約しており、勝手に作ることはできないのです。そこでPやDは、新人やアーティストの卵と出会い、誰よりもはやく唾を付けておこうとします。毎晩ライブハウスに顔を出したり、マネジメント事務所マネージャーやテレビ局スタッフや雑誌編集者と常に酒飲んで情報交換したり、デモテープを聴きまくったりしています。音楽業界全体のイメージとして、華やかで遊んでいるようなイメージを持たれる方が多いと思いますが、実際、私はほとんど遊んでいました。音楽Dにとってビジネスチャンスとは、求めている人や情報との出会いであり、「ビジネスでチャンスを掴む」ためには、常に遊んでいなければならないのです。もともと、音楽ビジネスや芸能ビジネスというのは遊びを商売のネタとしているのですから。

数多くの遊び場のなかで、「どこで遊ぶか?」はかなり重要です。 遊び場に迷うときは、自分の「気が向く」 場所で遊ぶ方がいろんなチャンスを掴むことができます。自分の「気が向く」場所には、自分と同じ遊びが好きな連中が集まっていて、思いがけなく探していた新人の卵に出会えたり、キーマンとなる人を紹介してもらえたり、情報をゲットできたりするものです。

音楽Dも仕事ですから、常に自分の好きな音楽制作を担当できるとは限りません。自分があまりよくわからない苦手なジャンルの音楽を担当することもよくありましたが、こんなときは新しいチャンスが訪れることはありませんでした。チャンスはあったのかもしれませんが、気づいてなかっただけか、センサーが鈍感になっていたのだと思います。こういうときは、現場での仕事はそこそこに、夜の遊びに出かけるようにしていました。

このテーマを武道的に考察したコラムと結論は同じになってしまいましたが、「ビジネスでチャンスを掴む」ためには、やはり素直に自分の「気が向く」ことに注力することが大事なのではないかと思います。