「ビジネスでチャンスを掴む」を武道的視点で考えてみる
週2回、私は道場で剣術の稽古をしています。もともと剣道や居合をやっていたこともあり、古武術には興味がありました。今回のコラムは、ビジネスで重要な『チャンスを掴む』ということについて、武道的な視点から思うことを書いてみようと思います。 ビジネスパーソンなら誰しもチャンスを掴みたいと考えるでしょう。チャンスとはいったい何なのでしょうか?
武術で、例えば刀で敵を斬る場合を考えたとき、刀と敵の体が接する点(ポイント)が生じれば、「斬れた(斬られた)」という結果が現れます。もし、刀と体が接する点が生じなければ、「斬れてない(斬られてない)」という結果になります。点は、XYZ軸の3次元的な空間上の点として捉えることができます。点を1ミリ外してしまうと相手を斬ることができません。また、点は時間的にも捉えることができます。斬るタイミングが1秒でも速い(遅い)と、相手を斬ることができません。武術を“人を殺傷するための術”として考えるなら、敵を斬るためは「空間的に、かつ時間的に、いかに点を捉えるか」を探求することになります。武術を“危機から身を守るための術”として考えるなら、敵の攻撃を躱すためには「空間的に、かつ時間的に、いかに点を外すか」を探求することになります。
しかしながら、このようなことを頭で考えながら稽古するのは初歩の初歩で、達人は勝手に身体が「そのように動く」のだそうです。「なんとなく刀を振り下ろしてみたら、そこに敵の首があった」という感じです。Wow!
ビジネスでチャンスを掴む場面として、キッチンカーなどで弁当の移動販売をする場面を考えてみます。この場合、キッチンカーのそばに客がやってきて、「どんな弁当があるのかな?」と覗き込む瞬間が「チャンスを掴む」瞬間です。客に買ってもらうためにはまず、客と接する場所に自分が居なければなりません(空間上の点を捉える)。また、客が居る時刻に居なければなりません(時間的な点を捉える)。これが移動販売で物を売る最初の段階ですが、この「点をどのようにしたら捉えられるか?」について私たちは頭を悩ませるわけです。しかしながら物売りにも達人がいて、「売り物を持って歩いていたら、勝手に人が寄ってきて物を買ってくれる」のだそうです。 Wow!
この不思議な現象の正体は「気」であるとされています。武術では「殺気」や「気配」といった言葉が使われたり、商売では「人気」「景気」という言葉が使われたりします。武術ではこの「気」を察知し、コントロールすることが求められます。これを「気の感応」といい、稽古では「気の錬磨」を行います。これを武術で終わらせるだけではなく、教育やビジネスや実生活の場である社会でも活用できるように体系立てられたのが武道です。
武術家の光岡英稔氏は著書『身体の聲』で、感性や感覚の源泉には「気が向く」という働きがあり、「気が向く」という糧によって私たちは生き延びてきてきた、と述べています。
現実社会で自分の「気が向く」という働きを察知し、「気が向く」方向へ身をまかせようとするのはとても怖いことです。なぜ怖いかというと、そのような自分の直感や感性に対し、私たちは100%の自信が持てないからです。だから私たちは、「気が向く」ことを「気のせい」で片づけてしまいがちです。そうなるとだんだん、「気が向く」ことがあっても気づかないふりをし、いつの間にか「気が向く」ことを察知できなくなってしまっているかもしれません。しかし最近私は、自分の「気が向く」という働きを以前よりも観察し、耳を傾けるように心がけています。なぜそうするのかといえば、そうすることに「気が向いている」からです。
そういえば面道臭がりの私は最近、徳島イノベーションベースという起業家たちの集まりに参加するようになりました。なんとなく「気が向く」ので、そうしています。少しサボっていたこのコラムを書こうと思ったのも、なんとなく書いてみようと「気が向いた」からです。
どのような稽古をすれば「気」を察知できるのか?については、またの機会に書いてみようと思います。