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<中編>選択する、決定する、捨てる能力(新規事業人材の能力-4)

<中編>選択する、決定する、捨てる能力(新規事業人材の能力-4)

ビジネスにおいて“新しい価値”を生み出しカタチにするために、私たちはどのように選択し、どのように決定し、どのように捨てればよいのでしょうか?今回は、決定する、について考えてみます。

そもそも「どのように決定するのか?」ということがなぜ関心事になるのでしょうか。突き詰めてみると「なぜ、決められないのか?」という問題に付き当たります。世の中には「論理的思考」や「問題解決のためのフレームワーク」など、分析から決定までの様々な思考メソッドが紹介されていて、私たちはそれらに関心を持ちます。その理由は「決められない」のは、「決定するためのメソッドを知らず、スキルもないから」という考えが前提になっていて、方法を知れば「決められる」ようになるという期待があるからです。そして、本を読んだり研修を受けたりしてさまざまなスキルを手に入れるのですが、いざ、決定する場面に直面すると、「どのスキルを用いて決定すればよいかの選択に迷う」こととなり、結局「決められない」という事態に陥ります。

「策士策に溺れる(様々な細工や仕掛けを巡らしすぎると、反対に失敗してしまうものだ)」という諺がありますが、これは「いろいろ作戦を練って決定し、実践してみたが結果的に失敗した」と、決定のプロセスまでには至っている点でまだ評価できますが、そもそも決められない、という状況は評価にも値しません。どうしてこのようなことになるのでしょうか?

日本の時代小説や剣豪小説の中にこれらのヒントがあります。剣術指南で、師匠から弟子に伝える最後の技のことを奥義(たいていの場合は秘伝や口伝)と言います。奥義と呼ばれるものはいったいどのようなものなのか?実際には、もうその弟子はすべての技(スキル)を習得しているので、奥義とは、技(スキル)を超越したものということになります。「どのように動くのか(手、足、視線、呼吸、剣先の位置など)」ということではなく、「絶対絶命の窮地に陥った時、どのように覚悟を決め、どのように振舞うのか」という、心構えや覚悟について語られているようです。

ビジネスの場面に話を戻しますと、本来決定を下すべき幹部が決定できない、というのは、幹部の心構えや覚悟が出来ていないのが問題だと考えられます。ビジネスにおける心構えとはつまり、企業のビジョン、ミッション、バリューなどのことです。経営者が行うべきは、幹部への「企業理念教育」なのです。これが充分でないと、いくら「論理的思考」や「問題解決のためのフレームワーク」を身に付けたところで、幹部としては役に立たないのです。企業によっては、幹部には実質的決定権がなく、経営者がすべて決定するということもあるでしょう。その場合でも、経営者は幹部に、(小さなものでかまわないので)決定を行わせる機会を作ってあげなければなりません。そうでないと、たとえば経営者が倒れたときなど、「企業が窮地に陥った場合にどのように覚悟を決め、どのように振舞うのか」が実践できず、企業の持続的な存続がままならなくなるからです。新規事業は、幹部教育の一環でもあります。